~前回のあらすじ~
滅多に話しかけてこず、接客は一切が不要というスタンスを貫き続けてきたとある客。
そのお客様が珍しく話しかけてきたその内容は「アルテグラ2500のO.H」であった。
クレ5-56をメンテナンスの主力として過剰に吹き付け続けられたアルテグラのギアー類は摩耗により限界を迎えていた。
購入価格の半額かそれを上回るメンテナンス料金になる旨を伝えるとやはり渋るお客様。
結果としては、なんとか納得を頂きリールを入院させることとなったのだが…。
今回はその続き、完結編。
始まり
当時のふく郎は勤務店舗でのアフターサービス担当をしていたこともあり、受付台帳のチェックは毎日欠かさず行なっていた。
お客様へ迷惑がかからぬように、問題が発生しないようにと毎日のルーティンとしての業務。
例のアルテグラをシマノへ発送して1週間、今のところメーカーからは修理費が高額になる等の連絡は無いがまだ安心はできない。
メーカー側のアフターサービスが混雑していると遅延は度々発生するのだから。
発送から2週間と少し経った頃の金曜日、シマノアフターサービスからの定期便が届いていたようだ。
パートのお姉さんが梱包を解き、納品されたものは作業台に並べ置かれている。
数ある品々の中に例のリール「アルテグラ2500」の姿。
開封し点検してみると、当時のシマノ製スピニングリールらしい適度~やや重く感じるシルキー的なハンドル回転フィーリング。
ゴリ感もほぼ気にならないレベルまで改善されていた。
それもそうだ、予想通りギアー類は総じて新しい部品へと換装済みなのだから。
そして幸いにも提示していた修理費予算を1,000円ほど下回りこれまた一安心。
午後5時30分、アルテグラ退院のお知らせをお客様へTELしたところ偶然にも近くへいらしていたようで、すぐにご来店。
その場でリールを回してもらい不備が無いかチェックしてもらう。
しっかりご納得頂いた上でお渡し&お会計。無事に修理完了品をお渡しできて良かった。
「良かった?まだ何も終わっていない、これが始まりだ」
当時のふく郎にこう言ってやりたい。
音
アルテグラのお渡しから週末を挟み、次の月曜。
午後6時前に5-56のお客様が来店し、挨拶をする間も無くふく郎の元へ速足で駆け寄る。
客「音がするんです」
(グリスが馴染みきってないからどこかで鳴ってるのかな)
ふ「それは申し訳ございませんでした。ちょっとお借りしますね」
耳をリールに近づけつつハンドルを回してみるが、音は鳴っていない。
客「それじゃ分からない、音楽消してハンドルをゆっくり回してください」
(やっぱりヤバめの人だった…ヘタな対応できないな)と、素直に従うことに。
他の買い物客もいるのでフェードアウト気味に店内放送の音量を絞った。
客「このくらいのスピードで!耳をもっと寄せて!こうすれば聞こえるんです」
ふ「あ~…ハイ、確かにほんの少し音が鳴ってますね」
音は確認できた。だが本当に小さな「シュッ」くらいのもので、環境音で全く聞こえなくなるレベル。
よくよく話を聞いてみると、外海から少し離れた静かな某小規模漁港でリーリングしているととても気になるとのこと。
続けて放たれた言葉の内容が狂気じみているというか…
「家電のコンセントを全部抜いて、明かりも消してからリールを回すとハッキリ聞こえるんです」
怖っ!(;◉Θ◉)
「メンテナンス直後だからこういう音が鳴るようでは不良品と同じだ」
「せっかくお金を出してオーバーホールしたのに」
とボソボソ話しゴネ始める客。
ふ「かしこまりました、申し訳ございませんでした。すぐにメーカーへ送って再調整してもらいますので…」
と、とりあえず場を半ば無理やり収めた。
次の週の定期便で発送したのだが…
静かな店内
「大至急で」
と記載した修理票はアフターサービススタッフの目にしっかり留まったようで、なんと発送の次週に店舗へ届いた。
すぐに連絡、その日のうちに引き取りに来店。
またも音楽ストップを指示され異音チェック。
客「まだ鳴ってる」
(確かに鳴ってるな…正直前回からほぼ変わっていない気も…)
ふ「申し訳ございません…再度すぐ対応してもらいますので」
この時点でリールについてこれ以上手の施しようが無いことは気付いてはいたが…
廻、廻、廻、そして終結
この連続クレームは初回のO.H受付を除いて3回に及んだ。
アフターサービスからのコメント欄には「当社の規定範囲ですのでもう勘弁して」的な内容が遠回しに書かれている。
4度目の異音チェック。やはり納得しないお客様に対し、ふく郎は限界に達する。
分かってもらうにはコレしか無いと最後の手段、店員として言ってはいけないことを言ってしまう。
ふ「これ以上をこのリールに求めるのであれば、無理です。」
その続きも伝えたかったがグッと堪え、お客様をリールコーナーへ連れて行きツインパワーを回してもらう。
ステラが品切れしてたから(・Э・)
ふ「新品のリールですが、ほんの少し音が鳴ってますよね。ステラでさえ個体によっては鳴ります。」
ふ「私のヴァンキッシュはもっと酷かったですよ。入荷直後なのに速めに回すとシュルシュル鳴ってました。」
アルテグラはアルテグラ。ツインパワーやステラにはなれっこない。
理解していただけた様子で、今思うと(やっぱりそうなんだな)というような表情をしていたような。
やり方は間違っていたとはいえ自分でメンテナンスするほどそのリールを愛用していた。
このお客様にとってはどのリールよりも輝いて見えていたに違いない。
最後のお渡しの際に一言伝えた。
ふ「私も自分でメンテナンスをしてるんです。お手入れで困ったことがあればいつでも声かけてください」
ふ「ありがとうございました」と見送って、1カ月と3週間に及んだこのトラブルは閉幕となった。
後日
不毛なO.Hクレームの嵐が去った後も、そのお客様は普段となんら変わらず接客を求めず静かに一人で買い物をしに来てくださっていた。
ある平日の夕刻、デジャヴのように話しかけられ相談を受けた。
客「これの他に何か必要ですか?」
そう話しかけてきたお客様は、シマノの純正オイル&グリスセットが入った買い物カゴをふく郎に見せた。
終わり
あとがき
部屋中の電化製品の電源を全て落とした暗闇の部屋でリールに聞き耳を立てての異音チェック。
傍から見ればそれは少しおかしく見えるかもしれないけれど、裏を返せばそれは所有しているリールへの愛情からくる行動であったのだと今なら理解できる。
ラスト部分は少しドラマチックに表現したがホントの話。これがキッカケでまともな(と言ったら失礼だが)メンテナンスをするようになってくれたみたいで何よりでした。
この接客からはたまに話をするようになり、メンテナンスのことはもちろん釣り場や釣り方の案内なども聞かれるようになりました。
以上、ご覧いただきありがとうございました。
ではまた!
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